Condition of Tasty Coffee
コーヒーは北回帰線(北緯25度)と南回帰線(南緯25度)の間を「コーヒーベルト」と呼び生産されています。
この地帯で共通している条件が降雨量、日照量、平均気温、土質の4つの条件なのです。日本でも沖縄や徳之島などでコーヒー栽培は行われていますが、やはり4つの条件が満たされていないために難しいのではないかと考えます。
降雨量は、年間1800mm~2500mm必要とされています。しかし必要なのが、成長期に雨が多く収獲期に乾燥している、つまり雨季と乾季があるという環境です。日照量については、コーヒーは太陽の光を好みます。しかし日当たりが強すぎると元気がなくなってしまうのです。これは紫外線の影響と言われています。そのため、高地では特に、コーヒーの横に少し背の高い木を植えて、日照量を和らげることをします。コーヒーのために日陰を作ってくれるこの背の高い木のことをシェードツリーと呼びます。
温度は年平均20℃という過ごしやすいところでコーヒーは育ちます。コーヒーは灼熱の中で育つようなイメージがあるようですが、産地に出向くと日本よりも良い気候でびっくりします。
土質は肥沃で、水はけが良いことが重要で、かつ少し酸性の土壌のほうがコーヒーにはいいようです。コーヒーに限らず農作物が肥料の三要素として窒素・リン酸・カリウムは非常に重要です。窒素は主に植物を大きく生長させる働きがあり、特にコーヒーの葉に与える影響は大きいのですが、窒素を与えすぎると病虫害に侵されやすくなり注意が必要と言われています。リン酸は開花と結実に大きな影響を与えカリウムは主に根の発育に関係しています。また現在も研究が進められていますが、有名な良質コーヒー豆の産地は火山灰土壌である事からも、腐植(土壌有機物)などが良い影響を与えていると考えられています。土質はやわらかく根が伸び栄養素を多く取れる環境が必要で土のやわらかさを十分に持ち、適度な窒素・リン酸・カリウムの化学肥料を与える事も良いコーヒーを作るのに重要と考えられています。
高地で収穫された豆ほどフレーバーの質が優れています。これには、山の高いところでは、低いところに比べ、朝晩の温度差が大きくなるという一日の中での温度変化が深く関係しています。コーヒーは植物なので、大きな温度変化にさらされると体を守ろうとぎゅっと実を引き締めます。すると種子も固くなり、この固い豆が良いコーヒー特性を持つようになるのです。スペシャルティコーヒーでは1200メートルから1800メートルぐらいでしたが、道路が整備されるにつれ2000メートルの産地からも良いコーヒーが届くようになってきています。
コーヒーの種子については、やはり元気の良い種子を育てることが非常に重要になってきます。これは生育してからの病気や害虫への抵抗力を持った、素晴らしいコーヒーチェリーを生育させる必要があるからです。種子はコーヒーチェリーの中の固い殻(パーチメント)に覆われており、それを種子用の水分値に乾燥させます。そして徹底的に選別作業が行われます。選別された種子はポッドに二粒から三粒ほど植えられ数センチまで育てていきます。そして一番元気に育っている苗を農園に植え替えることになるのです。ここでもスペシャルティコーヒーの生産という概念が導入されています。
コーヒーの木につきましては早くて3年目から収穫が可能ですが木の健康状態を保つことはやはり重要です。
コーヒーチェリー一粒に対して必要な葉の枚数も農園の環境によっていろいろですが、適正な数字として「葉っぱ3~6枚で1個の実ができる」と言われており、葉っぱの厚みがあるほど光合成がよくされてコーヒーの実にも良い影響を与えます。ということは、一本のコーヒーの木に生育するコーヒーチェリーの数もおおよそ適正数があるのです。一本の木が土壌から得られる栄養分が決まっているため、木が大きくなりすぎては実に栄養がいきません。また木が古くなるとやはり実に栄養が行かないため数年に一度は剪定(枝切り・刈り込み)し、木をリフレッシュさせ人が立って実を収穫できない以上に木の高さを調節します。
枝に関しても葉は多くても新芽に実がつくので、栄養がいきやすいように枝も長くなりすぎないようにするのが一般的です。木は剪定をうまくすると100でも美味しいコーヒーがとれるとも言われていますが、その点はさまざまな研究が必要と言われています。
農園の方たちにとって当然美味しいコーヒーでないと高値で売れません。しかし、おいしさも大事ですが、収量も重要となってきます。そのためにその農園の土壌や気候条件にあった品種で生産することが多く、十分な収穫を確保しつつ美味しい豆ができる品種を模索していく事になります。
また、品種で大事なのは花が咲いて実がつき収穫までどれほどの期間があるか?これも収穫まで長いほど美味しいコーヒーができるといわれていますが、天候によって当然収穫するまではリスク(その間に大きな気候変動が起こる可能性)を伴うため、美味しくてかつ早く収穫できる品種を選ぶ傾向があります。
また品種によって収穫時期がずれるのを利用して大農園では品種を使い分けています。いっせいに実が熟すと一度に収穫できないので、区画ごとに収穫時期の違う品種を植えたりもします。
パナマのゲイシャ種やエルサルバドルのパカマラ種など、特別に良いものが限定された農園で生産され評価されると流行となる品種もありますが、スペシャルティコーヒーの生産をめざしていない生産者は品種にあまりこだわっていない農園主は多いです。
コーヒーチェリーが赤く熟すと収穫が始まります。しかしコーヒーチェリーは桃やりんごなどの大きな果物とは違い、一本の木にたくさんの実が生ります。降雨量と降雨時期のタイミングがよかったら一斉に完熟になるのですが、そうではない時は熟度がバラバラな状態で収穫期を迎えます。問題は完熟豆の状態を正確に把握できるかです。収穫者のスキルの経験もいろいろなところから非常に難しい工程となっています。いわゆる人によって「赤」の認識が違うということです。そこで必要になってくるのが教育です。スペシャルティコーヒー以外ならあいまいな状態で赤として収穫しても合格でした。しかし、スペシャルティコーヒーは品質評価が最終的にカッピングなので、収穫状態とカッピングの整合性を確認するということになります。全ての収穫者が完全に近い完熟で収穫することが絶対条件となっています。
「精選」とは収穫した豆の果肉を取り、コーヒー豆の外皮のついた状態(パーチメントコーヒー)で水分が約12%になるまで乾燥させ、脱かく後、更に黒い豆を取り除くまでの行程を指します。 精選は最高級品のコーヒーになると未完熟豆(実が赤く熟していない)はもちろん過熟豆(熟しすぎて黒くなった実)も取り除かねばなりません。それらは水を使い浮いた豆を取り除いたり電子選別機や目での取り除きが行われます。 この精選がコーヒーの味に与える影響は非常に大きく、コーヒー1杯できる中で1粒でも熟していない豆が入っているとコーヒーのクリーンカップ (良いコーヒーの指標であるコーヒーの良い味以外のものがない事)に影響します。
このようにコーヒーの収穫・精選はおいしいコーヒーができるのにとても大切なものとなっており、農園で働く方々の努力の結晶として我々はコーヒーを飲んでいます。
コーヒーの乾燥は水分が12%になるまでさせます。これはコーヒーの外皮つき、つまりパーチメントといわれる状態でされます。乾燥工程はパーチメントを天日干し または35度~38度の温度の乾燥機でされます。この時、水分がある一定以上抜けてしまうと、パーチメントの水分が抜けたところに空間ができて割れやすくなるので注意が必要です。
パーチメントはお米でいうと玄米ではなく籾(もみ)の状態です。お米は良い状態で籾のまま保存すると、1年ではほとんど劣化しないという話を聞いたことがありますが、コーヒーも適正なパーチメントでの保管ではほとんど劣化しません。
輸出が決まった段階で脱殻されコーヒーは船によって日本に運ばれます。モカやブラジル、サントスなどの名前も港の名前から由来しています。日本に輸入される場合は南米やアフリカなどは赤道をまたいでくるため温度上昇によるコーヒーの ダメージは深刻なものがあります。現在は良質のコーヒー豆の輸入には多くが定温コンテナを使用しています。定温コンテナは温度が一定に保たれるため、コーヒーの温度変化による輸送ダメージをなくします。日本に到着してからもスペシャルティコーヒーを中心とした品質の良い豆の多くは定温による倉庫での保管がされています。
コーヒー豆の農園サンプルは空輸で来ることが多く、サンプルで購入したら輸送段階で大きく品質が落ちる場合もあるので、コーヒーの輸送もおいしいコーヒーの条件として非常に重要な意味を持っています。
コーヒー豆はご存知の通り、焙煎する事により独特の香りと味に変化していきます。焙煎は一般的にコーヒー豆専用の焙煎機で焙煎されます。弊社の焙煎機は主に1kg~60kg用ですが、それ以上の焙煎機もあります。一般的に1kgの釜は直火式で豆に直接火が当たる構造です。5kg以上焙煎する大きな釜になると、直火式では焙煎が非常に困難になるのもあり豆に直接火が当たらず釜に火が あたり、また火の熱風を利用したりする釜となります。また熱風式の熱を豆に送りこむ焙煎方法もあります。
コーヒーはどのように温度変化し焙煎するかによっても味が変化します。焙煎度は「ミディアムロースト(浅い煎り方)」では酸味の強いコーヒー、「ハイロースト」で苦味と酸味が調和、「シティロースト」以上は苦味が増していき、アイスコーヒー用は「フレンチロースト」となります。
焙煎に関してはコーヒー会社それぞれいろいろな考え方があり、また豆によって焙煎方法が適す・適さないがあります。しかしながら、焙煎方法が各社の企業秘密と言われていたのは前時代的な考えです。スペシャルティコーヒー市場においては、際立ったフレーバーを引き出す焙煎方法の考え方を、焙煎士の間で共有しマーケットの質を高めていくことが新しい考え方です。
生豆までの品質が良く、焙煎度合いが適していても、焙煎してからの鮮度管理ができていないとそれまでの努力は水の泡となってしまいます。コーヒーは劣化しますが腐ることはありません。この腐らないという事実が「コーヒーは生鮮食品」という位置づけにならない原因です。
コーヒーに関して製造年月日から一年という表記がたくさんあり、企業によって考え方は様々です。鮮度に関しては官能評価しかありません。業界的には鮮度維持期間を短くすると流通や保管などでリスクを抱えることになるために、どうしても長く設定することになります。しかし、焙煎直後からコーヒーからは香り成分など様々な成分が揮発していきます。これが鮮度劣化です。焙煎後の風味が最高の状態は、豆の場合は2週間、粉の場合は1週間が目安です。田代珈琲では、焙煎後いかに早くお届けし、最高の状態をより長く楽しんでいただけるかを追求しています。